Made in JAPANの服からはじまる新しいエシカルを世界へ

永井純・飯田貴将/from clothes共同代表

古き良き時代の服とその持ち主の思い出を一緒に、当時を知らない若い世代へ届けるという古着と記憶の循環。それが、着なくなった人と着たい人をつなぐサステナブルブランド「from clothes」の取り組みです。運営するのは、オーダーメイドの洋服屋・St.ODIM(セントオーディン)を営むデザイナーの永井 純さんと、共同代表の飯田貴将さん、そして20〜22歳の学生たち。クローゼットに眠っていた古い服が、また新たに誰かの人生を彩る主役になる。服からはじまる、世界を見据えたfrom clothes流のエシカルな活動とは?

「どうしても捨てられない」クローゼットの古着に命を吹き込んで

自然豊かな靱公園に面したSt.ODIM。窓からたっぷりと光が注ぐ、緑に囲まれたリビングルームのような空間にfrom clothesの服が心地よさそうに並んでいる。一着ずつ付けられたタグには、服にまつわる持ち主の思い出が添えられていた。

色鮮やかな1980年代のワンピースの持ち主は、服飾に携わっていた青森県の80代女性。海外出張に持っていったそうだ。

「取り扱っているのは、1970年〜1990年代後半ぐらいまでの服ですね。月に1回この場所でポップアップや、大学生がコーディネートを考える試着会や撮影会もしています」と飯田さん。活動をはじめたのは、服飾に長く携わってきた永井さんとの、とある出会いがきっかけだったとか。

当時のことを、永井さんはこう振り返る。「実は私のお客さまから、75歳になるお母さまのクローゼットが大変なことになっていると相談があったんです。自宅に向かうと、捨てられない服でクローゼットがパンパンになっていて。素敵な思い出がたっぷり詰まった服を捨てられずに困っている人がたくさんいると知り、古着を引き取ることにしました」。回収した大量の古着をどうしようか悩んでいた時、ボランティア活動で出会った学生団体にいたのが飯田さんだった。

当時大学生だった飯田さんは同世代のメンバーたちと永井さんのもとを訪れると、山のような古着に釘づけに。「『どの服も想像していた以上にかわいくて、質が高い!』とみんながどよめきました。今では珍しい裁縫技術でつくられたハイクオリティな服が眠っていて、大量に捨てられているという現状もそこで初めて知ったんです」

初めてのデートの服、仕事の勝負服…など、一つとして同じものはないエピソード。レトロなデザインも若者には新鮮。

おぼろげながらも、何かの手応えを感じたという飯田さん。「この素敵な古着を、もっとたくさんの若い世代に見てもらったらどうだろう?」。そんな思いから、ほかの学生も巻き込み、from clothesが始動することになった。

2021年8月。試験的に開催した初めてのポップアップはなんと50名近くのZ世代でにぎわい、「かわいい!」という声とともに、一着一着タグを読み込んで古着の思い出に思いを馳せてみたり共感してみたり。

こうして、『着ない服を着たいあなたへ』をコンセプトに、クローゼットの服に命を吹き込む活動が本格的にスタートした。

幸せに生きた服を通して、同じような感覚を味わってほしい

from clothesで販売する商品はすべて、大阪の近隣エリアであれば永井さんと飯田さんが実際に自宅まで回収に行く。服にまつわるエピソードは事前にヒアリングするそうだ。

「服を提供してくださる方には、旅行好きな方も多いんです。だから、旦那さまと一緒に旅先で手に入れた服や、旅行のためにわざわざ購入されたという服もあって。それって、幸せな記憶がたくさん詰まっていると思いませんか?これから着る人にも、同じような幸福感を味わってもらえたらうれしいです。服も新たな持ち主のもとで新しい歴史をつくり、ボロボロになるまで着てもらえたら喜んでくれるんじゃないかな」

永井さんの言うとおり、服をとおして知らない誰かに思いを馳せることができるのもfrom clothesの魅力。また、普通のアパレルであればシーズンごとのコンセプトに合わせた画一的な商品が並ぶところが、ここではカジュアルなものからドレッシーなものまでジャンルもさまざま。さらに、オーダー品が多いため、一着ごとにサイズ感も異なる。「〇〇さんの服は自分に合う」という視点から服を選ぶ人がいるのもおもしろいところ。

「どんなお客さまがいらしても、絶対に好きな服が見つかるような幅広いラインナップです」

スマホがあればいつでも物が買える時代に、あえて感覚を研ぎ澄ませて商品を選ぶ。服を迎え入れた人にとっても、ここならいつまでも記憶に残る買い物ができるはずだ。

また、記憶に残るのは服だけでなく、この爽やかな空間もそう。永井さんが靱公園のそばを選んだのは、ビルのすぐ間近まで緑が迫るほど、自然が近くにあるという唯一無二のロケーションに惚れ込んだからだそう。

St.ODIMの窓からは、きらきらと輝く緑と楽しげな声が。

「お店をするなら光がたっぷり入るところがよかったんです。京町堀という地名からもわかるように、このあたりには堀があったんですよ。ビルの目の前に川が流れていて、そこを埋め立てているんです。道路を一本も挟むことなく目の前が公園という景観は、日本中探してもないんじゃないかな」

水都大阪の名残を感じるこの空間で、服と自然、人が穏やかにクロスしているようだ。

服にも「地産地消」をfrom clothesが考えるエシカル

from clothesが提案する新しいリユースの形は、まさにエシカルそのもの。この地で店を開いて22年目、ずっとファッションにかかわってきた永井さんの考えるエシカルとは?

「アパレルの世界では、在庫があると経費で落とすために焼却処分することがあります。それを知った時に、必死になってデザインしてきたのに本当に悲しかったんですよね。捨てるのは良くないからと海外に輸出をしていた時期もありましたが、送り先のほとんどは東南アジア。送る洋服の多くが化学繊維でつくられているため、燃やされる時に発生する有毒ガスで現地の人々の健康を害してしまっている現実も。『一体何のためにやっているんだろう?』と感じました。それならば、やはり服をつくった国の中で、最後まで服の面倒を見ないといけないんじゃないかと思いました」

デザイナーとして経験豊富な永井さん。服への愛情が深いからこそ、服の未来を考える。

「SDGsの17の目標の中に『つくる責任、つかう責任』というものがありますが、つくり手には見届ける責任があるはず。これからのデザイナーはそこまで考えた上でデザインをしないといけないし、何かを生産する人はみんなそう。もちろん、経済を回すためには新しさも必要ですから、世の中に存在しているものをうまく回すことと、新しいものをつくり出すことの両輪が必要なんじゃないかな。食べ物と同じように、服も地産地消が大切です。私にとったら、ストーリーという新しい価値観を乗せたこのビジネスがそうですね。みんなが地産地消を考えていくことがエシカルであり、アップサイクルであると考えています」

時代が変化して、今まで当たり前だと信じて疑わなかった価値観が壊れ、また違う転換期へ差しかかってきたようだ。from clothesは単なるリユースにとどまらず、服からはじまる日本の魅力を世界へ発信しようとしている。

日本からパリへMade in JAPANは日本の宝!

「エシカルで、もう一度日本を世界へ」。これは2023年6月に大阪で開催された、飯田さんが総合プロデュースを務めるZ世代による祭典、エシカルエキスポのコンセプト。もちろんfrom clothesも参加して、「エシカルがかっこいいことを発信したい」と飯田さん。小さな点だった活動を面にするべく、企業を巻き込んだ大きなムーブメントを目指したいと話す。

「エシカルの本質って、日本人が昔から大切にしてきた『もったいない』という精神に近いと感じています。僕は昔、ごはん粒を残すとおばあちゃんに『このお米をつくるのに、どれだけの人が関わっていると思う?』と怒られました。もったいないとは、本質的な価値を見出していない状態のこと。海外ではこの考え方が評価されているのに、日本人は不思議とそれに気づかずに、逆に海外を追いかけようとしていて…。こうした日本ならではの美徳文化を、若い世代からアウトプットしていきたいですね」

定例ミーティングの様子。学生たちが主体的にfrom clothesの運営に携わっている。

さらに、2023年7月にはフランス・パリで開催されるジャパンエキスポへの参加も決まっている。永井さんは洋服だけでなく着物の回収もしており、リメイク品を実際に手に取ってもらえるように計画しているとのこと。※インタビュー当時(2023年5月)

「歳を重ねられた方が終活をはじめると、最初に捨てられるものが大量の洋服と着物なんです。着物も日本製の洋服の古着も、まさに日本の宝。Made in JAPANの古着の仕立ては、日本が世界に誇れるクオリティです。熟練のものづくり精神を海外の人たちにも感じていただけたら」と永井さん。今後はfrom clothesの拠点を全国に広げて、日本の宝を廃棄することなく世界中に届けたいと願う。

St.ODIMがある靱公園付近は、近年では海外の方も多く住むエリアになった。「公園で遊ぶ子どもたちの声も外国語をよく耳にします。今後、ますますインターナショナルな場所になるのでは」とお二人。

なんばや梅田からほど近く、アクセスも良好。旅の途中で服の宝探しをする気持ちで、Made in JAPANに気軽に触れてみてほしい。

プロフィール

山口県出身の永井さん。大阪の専門学校卒業後も、人の温かさに惹かれて大阪を拠点に活動。アパレルメーカーのデザイナーとしてキャリアを積み、2001年に「St.ODIM」をオープン。パリコレ参加やテレビドラマへの衣装提供も。大阪生まれ・大阪育ちの飯田さんは近畿大学在学中の2020年、「世界の笑顔の総量を増やす」を掲げて大晦日に笑顔を届けるメッセージ花火イベントを開催。現在は一般社団法人ETHICAL EXPO JAPAN専務理事も務める。