“ファッション”からつながる多彩なクリエーションで、未来を変えていく

小出真人 小出梓/Atelier M/A 代表

デザイナーの真人さんとパタンナーの梓さんが大阪で立ち上げた「Atelier M/A」は、アート・ファッション・サステナブルを軸としたブランド。「心揺さぶるエモーション」をコンセプトに、環境負荷の少ないものづくりを手がけている。

「思わず手に取りたくなるようなおもしろいクリエーションをとおして、未来へ想像を膨らませてくれる方を増やせたらと思っています」

多様性を持った個性が共存する豊かな社会を目指して、ユニークな視点から挑戦を続けていく。そんなお二人のルーツはどこにあるのか。サステナブルファッションに今必要な取り組みとは何なのか。一つひとつ掘り下げていく。

自分たちが育った場所を、大切にしていきたい

独創的なクリエーションを繰り広げる、お二人の原点。それは、真人さんが2001年、梓さんが2004年から暮らしたイタリアでの日々にある。

真人さん:「海外留学を支援するファッションコンテストでの受賞をきっかけに、21歳でイタリアに留学。3年後、妻と結婚し、二人で本格的にイタリアへ移住しました」

梓さん:「移住前は、大阪の企業でデザイナーをしていました。イタリアに渡ってからは、私はパターン(服の型紙起こし)技術の習得に特化したミラノのセコリ校へ、夫は北イタリア・ビエッラの『hLam(ラム)』というファッションブランドで働く日々。1年ほど週末婚の形で過ごしたあと、私もビエッラへ移り、近郊のパターンオフィスで経験を積みました」

特に「Atelier M/A」の指針に大きな影響を与えたのは、「hLam」のデザイナー夫婦のもとでの経験だそう。

真人さん:「彼らの仕事に向き合う姿勢から多くのことを学ばせてもらいました。自然や伝統に対する敬意やさまざまな事柄に向けられた好奇心、日々を生きる強い意志とエネルギーなどから、装うことは暮らしの断片ではなく、衣食住、すべてとつながってることだと気づいたんです。これまで点で理解していたことが、だんだんと線になっていき、そこからファッション以外の事柄にも目を向けるようになっていきましたね」

価値観を大きく変えたイタリアでの生活を経て帰国したお二人は、2018年にAtelier M/Aをはじめることに。その拠点として大阪を選んだ理由を尋ねてみた。

真人さん:「イタリアに根付く『自分たちが育った場所を大切にする文化』が素敵だなと感じていました。日本のように都会へ集まるのではなく、グローバルに仕事をしていても、地元を拠点にしていたり、郷土料理や街への愛を感じられる人がとても多くて。そんなカルチャーに共感する思いから、自分たちが育った場所と共に成長していこうと決めました」

生きる場所へのこだわり、独自の美意識、多様性を慈しむ心。異なる文化に触れる中で培われた思想は、Atelier M/Aの基盤となっている。

イタリアでの生活で価値観が変わったというお二人

“物質的価値観”を乗り越え、“サステナブルな世界”の実現へ

これまでのファッション業界は大量生産・大量消費で成り立っていたが、今は「サステナブルであること」も見た目のデザイン性と同様に、意識されるように変わってきている。

そんな中、お二人はどんな思いを抱きながら活動しているのか。

真人さん:「僕たちが大切にしていることは、アート・ファッション・サステナブルをひとつにする活動をとおして、未来を想像してもらうこと。ファッションを『物質的価値』として捉えるままではサステナブルな世界に移行していくことは難しいので、『想像力の価値』を提供できる表現を考えたいなと思っています」

「本質的な価値」と向き合うために、「物質だけが価値ではない」という現代アート的なアプローチを仕掛けていく。その構想について、イタリアの芸術家であるフォンタナの「空間概念 期待」という作品を例に挙げ、真人さんはさらに詳しく説明を続けた。

真人さん:「無地のキャンバスを切り裂き、穴をあけた彼の作品。平面的な絵画や彫刻といった従来の芸術の枠組みを飛び越え、『キャンバスに何かがある』のではなく『キャンバスを切り裂いたその内側を想像すること自体に価値がある』という新しい考え方を表現しています。誰でもできる表現なのではと思う人もいるけど、今ある思想を大きく移行させる作品を生みだすのはとても難しいこと。そういう目には見えないものと向き合う取り組みに、僕らも力をいれていきたいです」

世の中の「当たり前」は、本当に正しいのか。一つひとつの物事に問いかけ本質に迫るお二人のクリエーションは、ファッション業界の未来を明るく照らしていくことだろう。

素材の美しさや多様性を見いだし、生まれ変わらせていく

量産型の構造は良い方向に変わってきてはいるものの、まだまだ改善すべき点も残っている。Atelier M/Aでは、端切れ布を再利用したオリジナル糸も企画し、専門の企業と共につくっているが、その道のりも一筋縄ではいかないと言う。

梓さん:「業者に粉砕を頼んだら『1トンからじゃないとできない』と断られてしまって。大変だけど私たち自身で、家庭用のミキサーと手作業で粉砕してつくっているんですよ」

サステナブルファッションを手がけるうえで、直面した厳しい現実。しかし「リサイクルにしか出せない味がある」と真人さんは熱く語る。

真人さん:「粉砕した端切れ布は、オーガニックコットンと、従来だと廃棄する繊維の短い落ち綿を一緒に紡績しています。端切れ布には、意図的に多種多様な素材や色のものを混ぜ合わせていて、リサイクルならではの素材の表情に魅力があるんです」

捨てられるはずだった素材の美しさや多様性を見いだし、生まれ変わらせていく。そんな過程を経て完成した作品には、唯一無二の表情が宿っていた。

日本のものづくりに根付く、“再利用”という視点

日本の文化に向き合い、伝統ある素材を再利用したクリエーションも手がけるお二人。Atelier M/Aの引き出しには、美しい着物の帯がずらりと並んでいる。

真人さん:「イタリアでの生活が、日本のことを改めて考え直す機会になりました。伝統的な日本文化を古典にするのではなく、今の人の生活に馴染むスタイルで継承したいと思うようになり、魅力的な和装のテキスタイルをかばんにリメイクして販売しています。素材自体も、できるだけ全部使い切れる形に落とし込むようにしてます」

現代の価値観から素材を見つめ、再び愛されるアイテムへと昇華させていく。手間のかかる作業だが、継続できる理由とはいったい何なのか。

真人さん:「効率だけを重視することは違うと思いますし、もともと日本の和装は、反物を極力裁断しないで仕立てられてます。合理的で、反物を織った人や生命に対する敬意も感じられ、仕立て直しも容易にできる。とてもよく考えられていますよね。建物や自然との関わり方なども、現代人が学ぶべきことがたくさんあると思います」

「つくり直す」ことも前提に考えられた、日本ならではの考え方。現代風に変身させながら大切に受け継ぐお二人の姿があった。

よく見返すという日本文化独特のデザインブックと、帯をリメイクしてつくられたバッグ

“おもしろさ”を入り口に、クリエーションを広めたい

アート・ファッション・サステナブルをひとつにしたクリエーションを、もっと知ってほしい。そのきっかけとして、幅広い人が興味を持ってくれるような「おもしろい」商品や企画を生みだす必要があるとお二人は考えていた。

梓さん:「私たちが考える『おもしろさ』とは、固定概念や常識にとらわれない意識、サプライズやクリエーションとしての挑戦の要素を楽しんでいただくこと。心惹かれるデザインの中にサステナブルをさりげなく取り入れて、いろんな人が身につけたくなる商品を提供できればと思っています」

装うことは、自分らしさを表現すること。心との結びつきが強い分野だからこそ、気負いなく自然とサステナブルな世界へつながるファッションを追究していきたい。写真や文字をコラージュしたTシャツも、そんな思いから生まれた商品のひとつだ。

雑誌から切り抜いた文字は直感で選んだという真人さん

梓さん:「日本語の意味がわからなくても手に取りたくなるデザインだし、意味がわかるとさらにおもしろさが伝わるので、外国人の方にもおすすめ。オンラインショップものぞいてみてほしいし、インバウンドが戻って展示会やお店に来てくれる方が増えたらほんとにうれしい」

未来に向けたさまざまなアプローチを仕掛けるお二人に、これからの展望を聞いてみた。

真人さん:「Atelier M/Aの活動をいろんなものに結びつけて、大阪をもっと豊かな街にしていきたいですね。たとえば、廃材や空きスペースなどの新しい活用方法を考えたり、『視点の転換や組み合わせ』に目を向けて再利用の可能性を拡張していきたいです」

服や小物などの「物質的価値」を越えた、新たなアイディア。幅広い世代に向けたワークショップや、体験の場をつくることにも取り組んでいきたいと語る。

梓さん:「実際に体験してもらうことで、楽しみながら、新しい気づきや学びが生まれていく。自分自身の経験から感じることは、とても大切ですよね。これからも活動の幅を広げながら、新しいことにたくさんチャレンジしていきたいです」

心を揺さぶる表現をとおして、世界のあるべき姿をみんなで考えていく。そんなAtelier M/Aには、世界、そして未来に求められる取り組みが詰まっていた。

互いを補い合いながら、誠実にサステナブルファッションの未来と向き合う

プロフィール

デザイナーの真人さんとパタンナーの梓さんによって設立された、大阪を拠点に活動する「Atelier M/A(アトリエ エム/エイ)」。アート・ファッション・サステナブルを軸としたブランドで、かつてイタリアで過ごしたお二人の経験がクリエーションの指針となっている。