誰もがきっと笑顔になる、大阪発のおいしいヴィーガン料理

中井純一/株式会社街のあかり代表、パプリカ食堂 Veganオーナー
ヴィーガンとオーガニックにこだわるカフェ&レストラン「パプリカ食堂」。肉や魚、乳製品や卵を一切使用していないとは思えないほど満足度の高い料理の数々には、古くから“くいだおれの街”と呼ばれる大阪に住む人も、海外からの旅行客も、思わずにっこり。体にやさしいだけでなくきちんとおいしい、こだわりのヴィーガン食に込めた想いとは?大阪のソウルフード“粉モン”をグルテンフリー&ヴィーガン仕様で提供する、今夏オープンの2号店にも注目です。
体にも環境にもやさしい、ヴィーガン食の可能性を信じて
ある出来事がきっかけで、人生観が180度変わったというのはよくある話。パプリカ食堂を営む中井さんも、まさにその一人だ。店を開くまで、実はジャンクフードやコンビニのごはんが大好きだったのだとか。
「ずっと飲食店で働いてきましたが、自分が食べるものには無頓着だったんです。でもある日、人間ドックで引っかかってしまって。これまで病気になったことがなかったので、本当に驚いて…。そこから、自分が口にするものやお客さまに提供する料理について、改めて考え直すことになりました」

「体にいい食事って、一体どんなもの?」。その答えを探そうと、健康や食に関する書籍を読み漁ったそう。たどり着いた答えは、動物性食品を口にしないヴィーガン食だった。
「当時はヴィーガンについて何の知識もなくて、いろんな店に足を運びました。特に衝撃を受けたのは、大豆を肉のような食感に加工した大豆ミートの焼き肉です。何度食べても本物の肉にしか思えないほどのクオリティでした」

大豆ミートの焼き肉のあまりのおいしさに感動したという中井さん。「生野菜や果物を毎日たくさん食べるのはハードルが高くても、これならきっと誰でも続けられるはず」。ヴィーガン料理の可能性に魅了されて、2014年にパプリカ食堂をオープンした。
野菜や豆を中心としたヴィーガンの食生活は、低カロリーで脂質も少なくヘルシー。健康面へのアプローチから扉を開いたこの世界だったが、動物を守ることで生態系を守り、畜産業によって生み出される大量の温室効果ガスの削減につながるなど、「食べるものを変えるだけで世界の環境問題の解決にもつながるはず」という大きな気づきも得ることができた。
実はまだまだヴィーガン対応の店が少ない大阪でのチャレンジ。当初は「ヴィーガンって何?」、「お肉ないん?」と言われることも多かったというが、今ではお客さんの約半分を占めるという海外からの旅行客に、健康意識の高い日本人、乳製品アレルギーを持つ人、環境問題に取り組む若い世代など、あらゆる人が食事を楽しむ場所に。
「ヴィーガンの人にもヴィーガンじゃない人にも、みんなに満足してもらえるのが一番の喜びですね」。パプリカ食堂の根底にあるのは、まさに“食のバリアフリー”。それを支えるのは、ヘルシーなヴィーガン料理という枠にとどまらない、おいしさへのこだわりだ。
おいしい驚きのある、安心でおいしい自然食を
「ヴィーガン料理は味気ないと思われることもあるんですが、そんなことはないんです。初めて自分が大豆ミートの焼き肉を食べた時のように、お客さまにもおいしい驚きを感じてもらいたいですね」と中井さん。たとえばチーズハンバーグのチーズは餅と豆乳をベースにつくり、大豆ミートのハンバーグと合わせることでジューシーさを表現するなど、心から満足できる味わいを意識しているそう。
また、マクロビオティック(玄米菜食)やローフード(酵素栄養学)の考えをもとにメニューを考案していることも特徴だ。
「動物性の食品を使っていないだけじゃなく、加工食品や精製された白砂糖、化学調味料も使っていません。無添加の調味料や自然栽培と有機栽培の野菜にもこだわったパプリカ食堂の自然食は、自分自身が体調を崩したからこそ、みなさんにもなるべく安心でおいしいものを食べてもらいたいという想いから生まれたんです」

店で使用している野菜は、大阪近郊の農園からのものが中心だそう。「大切に育てられた野菜は、想いがこもっている分だけ味が全然違うんです」と、中井さんも納得のおいしさ。豆乳ベースのマヨネーズなど、丁寧に手づくりされるソースやドレッシングとも相性抜群だ。

野菜の味が濃く、ボリューミーでお腹もいっぱいに。「これって本当にヴィーガンメニュー?」と疑ってしまうほど豊かな味わいは、一度食べればきっと病みつきになってしまうはず。
物販やオリジナル商品で食の選択肢を増やしたい
パプリカ食堂を訪れると、物販コーナーが充実していることにも驚く。「自宅でもヴィーガンメニューを楽しんでもらいたい」と、コロナ禍以降に拡大。まるで小さなスーパーマーケットさながらの品ぞろえで、たとえヴィーガンの人でなくとも、立ち寄るだけでも楽しめそうだ。

「毎日の食事だからこそ、何を口にするのか自分で選ぶことが大切だと思うんです。いきなりお肉をやめることは難しいと思うけど、『今日はちょっとヴィーガンのレトルトカレーを選んでみようかな』とか、そんな気軽な感じでいいんじゃないかと考えています。そうした日々の選択の積み重ねが、体にも環境にもいい結果を生み出すんじゃないかな。グルテンフリーやヴィーガン対応のオリジナルのドレッシングなどもここで販売できるように、現在開発しているところなんです」と、店内での食事以外にも、食の選択肢を増やそうと意欲的だ。
コロナ禍では、ヴィーガン対応の醤油ラーメン「グリーンヌードル」の開発にもチャレンジ。“食のバリアフリー”を目指す中井さんらしく、ヴィーガンじゃない人にも親しみやすいインスタントの醤油ラーメンが誕生した。

「ヴィーガンのラーメンはあまりないので、自分でつくってみたいと思いはじめたのは5年前。資金調達のためにクラウドファンディングにも挑戦して、目標を上回る支援金額を達成。1年ほど時間をかけてようやく製品化することができました。ところが、一般のインスタント麺よりもやや高価になってしまったからか、期待に反して売れ行きはいまいちで…。考えが甘かったなと反省しました。ほかにも、一度に大量生産しないといけないといった販売の難しさもありましたが、身近なインスタント麺をとおして新しい食の選択肢を提供できたことはいい経験になりましたね」
ヴィーガンレストランがまださほど多くない大阪で、こうして果敢に挑戦を続ける中井さん。その甲斐あってか、コロナ前よりも客足はやや伸びているそう。また、店でアルバイトをしていた学生がヴィーガン関連で起業するなど、大阪のヴィーガン界の旗振り役として着実に進化しているようにも思う。それをさらに印象づけるのが、新世界にこの夏オープンした2号店「新世界パプリカ食堂」だ。
「新世界パプリカ食堂」ではグルテンフリーの粉モンを
「これまでパプリカ食堂ではグルテンフリーに対応するメニューがなくて、心苦しい気持ちでした。でも、大阪といえば粉モンですよね。観光地の新世界を歩けばたこ焼き屋にお好み焼き、串カツ屋がいっぱい。そんな場所で、小麦を控えている人にも、大阪のローカルフードをヴィーガン&グルテンフリーで楽しんでもらえないかなと考えました」

取材時は2号店のオープン前。構想中のため詳細はまだ聞くことができなかったが、小麦粉の代わりに米粉を使った粉モンと串カツを中心に、どて焼きなどのローカルフードを提供する気軽な居酒屋になるらしい。
「多様性に満ちた大阪の街に、もっとヴィーガン料理の店が増えたらいいなと思います。海外からの旅行客にも安心して楽しんでもらいたいですね」
ビジネス街と住宅地がほどよく共存している新町と、にぎやかな観光地の新世界。個性の異なる2箇所を拠点にしながら、これからも変わらず、誰もが笑顔になるおいしいヴィーガン料理を届けていく。

プロフィール
大阪・堺市出身。高校卒業後から飲食の世界一筋で、代表を務める株式会社街のあかりは、15年続けたバーの店名が由来。2014年に「パプリカ食堂」、2023年夏に「新世界パプリカ食堂」をオープン。ヴィーガン&グルテンフリーのメニューのほか、ソースやドレッシングの開発にも挑戦中。