大阪の街並み、人、食。日常を体験できる民泊で、“暮らすような旅”を

豊田泰郎 豊田愛子/大阪ホームシェアリングクラブ代表(roundabout OSAKAホスト)

民泊施設「roundabout OSAKA」のホストとして、さまざまな国や地域のゲストを温かく迎える豊田ご夫妻。こだわりのインテリアが詰まった空間には、心がほっと安らぐような優しい空気が流れていた。

愛子さん:「1泊の予定だったのに7泊、10泊・・・と滞在が延びたり、部屋でずっとゴロゴロしているゲストもいらっしゃいます」

顔をほころばせながら教えてくれたお二人。現在は「大阪ホームシェアリングクラブ」の代表を務めるほか、全国のAirbnbのホストとの交流も深めるなど、ホスティング以外の活動にも積極的に取り組んでいる。

ツアー旅行にはない民泊の魅力とは何か。今の時代に求められている旅とは、どんなものなのか。その答えを聞いてみた。

 “旅”とは、私たちを成長させるもの

お二人がホスティングをはじめた原点。それはバックパッカーとして世界中を旅していた学生時代、まだ日本ではマイナーだったゲストハウスやユースホステルを泰郎さんが泊まり歩いている時のことだった。

泰郎さん:「世界中の旅人とコミュニケーションをとれる空間の素晴らしさに大きな感銘を受けたんです。『こんなに心地良い空間なのに、なんで日本にはないんだろう』と思いましたね」

もどかしさを感じたものの、当時は自分がホストになるとは考えていなかった泰郎さん。卒業後、就職、結婚、子育て・・・と忙しい日々を送る中、転機が訪れたのは2015年。サラリーマンとして東京で働いていた時のことだ。

泰郎さん:「大阪へ帰省途中に信州のゲストハウスを利用したんですが、そこには若い頃に体験したような素敵な時間が流れていて。感動が蘇ったのをきっかけに『僕らにもできるんじゃないか』と考えるようになりました」

そのタイミングと近い時期に「Airbnb」を知る機会があり、どんなものか興味を持ったのだと言う。まずは、実際に自分たちで体験してみようと、愛子さん、娘さん、息子さんで東南アジアの国々を旅することに。当時専業主婦だった愛子さんも、この旅をとおしてホスティングをはじめることを決意したそうだ。

ホストになったきっかけを楽しそうに語るお二人

愛子さん:「子どもたちが外国人に自分から話しかける様子を見て、旅って人を成長させるものなんだなと。こんな体験を自宅でできるのは素敵だし、近所の子たちも遊びに来てくれたら地域の仲も深められると思いました」

その後、最初は東京でホスティングをはじめ、2018年には家族で大阪へ戻り2019年から自宅の部屋を貸しだす形で本格的にスタートした。

泰郎さん:「東京や地方で続けることも考えたけど、やっぱり愛着のある故郷でやりたい気持ちが強かったんです」

一つひとつの選択肢にじっくり向き合い、泰郎さん、愛子さんともに納得いく答えを見つけだしていく。その過程があったからこそ、世界中のゲストに愛される民泊施設をつくりあげられたのだろう。

民泊に、“宿泊+α”の新しい価値を

お二人はホスト同士のコミュニティ「大阪ホームシェアリングクラブ」の代表も務めており、コロナ禍でのホスティングのモチベーションを維持するために、メンバー間での情報交換を促している。さらに「宿泊+α」の取り組みとして、企業の商品を民泊施設で体験できるタイアップにも取り組んでいるそうだ。

泰郎さん:「たとえばレコードプレーヤーみたいに、実際に利用しないと良さを感じにくい商品を体験いただけます。商品の魅力が伝わるいい機会になればと思いますし、企業の発信で民泊への予約にもつなげられます」

民泊をショールーム化、メディア化する、新しい取り組み。その中でも、音楽マニアの泰郎さんは「レコードプレーヤー」への思い入れが特に強いのだと語る。

部屋の一角に置かれているレコードプレーヤー

泰郎さん:「音楽をサブスクで独りで聞くのも悪くないけど、みんなで『この曲素敵だよね』と語り合いながら楽しむのは、かけがえのない時間だと思う。そんな共有体験の魅力を若い世代にも伝えたくて、レコードを聴ける時間と空間を提供してるんですよ」

民泊を「泊まること」以外にもいろんな体験ができる機会にしていきたい。そんな強い思いが「roundabout OSAKA」には詰まっている。

“ガイドブックのいらない街”の日常を体験してほしい

「自由に行動しやすい民泊だからこそ、ツアー旅行では体験しづらい『暮らすような旅』を楽しんでほしい」と、愛子さんは語る。

大阪の楽しみ方を温かい笑顔で語る愛子さん

愛子さん:「大阪は『ガイドブックのいらない街』と私はよく言ってるんですが、ほんとに気さくで世話焼きな人が多いんです。知らないおばちゃんに話しかけられるのもしょっちゅうだしね(笑)コロナ禍で人と接する機会が減ってる今、コミュニティとのつながりを求める方にもぴったりの街だと思います。『いきなり話しかけたら引かれるんじゃないか』と不安にならずに、まずは思い切って声をかけてみてください。返事をしてくれる人はいくらでもいる街だし、まわりにいっぱい甘えるような旅にしてもらえたらうれしいですね」

大阪の日常を体験しながら、暮らすように旅をする。その中で民泊施設は「自分の家」のような存在になるものだ。

愛子さん:「出かける時だけでなく、家の中でも自分の好きなように過ごしてほしい。ゲストがリラックスしている姿を見られるのはホスト冥利に尽きますし、やっていて良かったなと思える瞬間ですから」

まるで実家のような温かさの中で過ごせる民泊。人との交流を求める外国人や若い世代が増えている今、「期間限定でローカルコミュニティに参加できることも魅力のひとつなのでは」と愛子さんは感じていた。

愛子さん:「通常なら自分の人生に深く関わらない関係性の人と、一定の期間同じ屋根の下で暮らす。そんな期間限定のコミュニティだからこそ、自分の思ってることを素直に言いやすいのかなと思います。失敗とか間違いを気にせずに、ただ楽しい気持ちで話せる場になれたらいいですね」

フレンドリーな人柄、どこか懐かしい街並み、会話が心地良く弾む民泊。大阪の旅は、心がほんわかするような優しい魅力であふれている。

“観光地以外のエリア”を、仲間とともに発信する

今、ホストとして注目しているのは、観光地以外のエリア。ガイドブックに載っていないような穴場スポットがたくさんあることに加え、地元のみなさんとつながるチャンスも多く「暮らすような旅」を体験しやすい環境だそう。もっと魅力を知ってもらいたいと、Airbnbホストコミュニティのリーダーたちと連携し、全国の「地域とゲストをつなぐホスト」と一緒に発信を試みている。

愛子さん:「それぞれの民泊施設とおすすめの場所を載せた地図を制作中です。その地域ならではの体験ができる情報をいっぱい入れ込んでます」

「地域のコミュニティとつながる旅」に魅力を見いだす人が増える一方、具体的な手段を知れるツールはまだ少ない。そんな現状に目をつけたのは、バックパッカー時代に「地域の人と関わりたい」と自身も考えた経験があるからだそう。

泰郎さん:「その地域ならではの生活を体験することで、外国人の方も『日本に来たんだ!』と実感しやすくなるはず。日本人がどういう生活をして、何を食べ、何を楽しんでいるのか。ぜひローカルな地域や民泊で体験してほしいですね」

また、全国のホストとつながる経験をとおして「コミュニティに参加する魅力」を再度実感できたと語る。

愛子さん:「個人事業主なことに加え、コロナ禍も到来。誰かと接する機会が少なくなって不安な気持ちも大きかったけど、同じ志を持つ仲間に出会えて前向きになれたんです」

今まで味わったさまざまな感情を、ゲストに寄り添う力へと変えていく。そんな泰郎さんと愛子さんだからこそ、あらゆる世代の人や外国人に響く取り組みを生みだせるのだろう。

“知られざる大阪の魅力”を、もっと広めたい

「民泊や観光地以外の地域の良さを伝えたい」という強い思いを胸に、次の取り組みも模索している。「大阪の上方落語が大好きなんです」と目を輝かせる泰郎さんは、落語家の方と協力して企画を練っている最中だそう。

今後の挑戦に思いを巡らせる泰郎さん

泰郎さん:「落語は旅噺や宿噺が多いから観光案内にもなり得るし、大阪はもちろん、民泊の魅力ももっと伝えていけたらええなと。英語で活動してる落語家さんもいらっしゃいますし、広い範囲に向けて発信できるんやないかなと思います」

ほかにも新しい旅行手段として、電車やバスに自転車を持ち込んで移動する「輪行」を提案したいことも教えてくれた。

泰郎さん:「大阪は輪行と自転車を利用すれば1日で回れるくらいのサイズやし、大阪起点で関西全域を旅することもできる。インバウンドが戻ってきたら、外国人観光客にもローカルな地域をもっと楽しんでもらえるんやないかな」

「『もっと滞在したい!』とか『また来たい!』と思ってもらえたらほんまにうれしい」という実感から生まれるさまざまなアイディア。「暮らすような旅」をとおして、知られざる大阪の魅力はこれからもっと広まっていくことだろう。

ゲストとの思い出を話すお二人

プロフィール

夫婦でAirbnbのホストをはじめる。現在は大阪ホームシェアリングクラブの代表として、「民泊の宿泊機能+α」の視点から活動中。「暮らすような旅」を楽しんでもらうべく、Airbnbホストコミュニティの各地のリーダーたちと連携し、「地域とゲストをつなぐホスト」との交流も深めている。