大阪の「おせっかい文化」で記憶に残る観光を

梅田りさ/堀江の会会長、IMANO OSAKA SHINSAIBASHI HOSTEL代表

地元のお客さんに混じって次々とカフェにやって来るのは、海外からのゲストたち。オープンテラスが開放的なこの店は、2019年にオープンしたホステル「IMANO OSAKA SHINSAIBASHI HOSTELの1階にあるカフェ「College Horie」です。移動疲れの残るチェックインの後にそのまま降りてきたり、観光先から帰ってきてふらりと立ち寄るゲストも多く、心地よい旅の中心にこのホステル&カフェがあるようです。「ホステルに泊まっている外国人ゲストに、ここでお好み焼きを焼いてもらうこともあるんよ」。そう話すのは、堀江の商店が集まる堀江の会会長で、この場所を運営する梅田さん。ホステルやカフェにとどまらず街と人をつなげるさまざまな活動を長年続けてきた梅田さんは、Airbnbのホストでもあります。提案するのは、見るだけ・買うだけではない、人と地域が交流する観光の形。そこには、大阪のちょっぴりおせっかいな文化も垣間見ることができそうです。

堀江の街を元気にする、数々のイベント仕掛け人

この街に梅田さんがやって来たのは、今からさかのぼること27年前。阪神・淡路大震災という未曾有の災害を神戸で経験したのちに、堀江で店を構えた。花屋とカフェをあわせた小さな店を原点に、次第に店の形を変えながら、かかわる業態や規模もどんどん大きくなっていったのだとか。

小さな子どもを抱えながら働く当時の梅田さんに明るく手を差し伸べてくれたのは、街の人たちだったそう。みんなで楽しもうと仲間内で初めて手がけた地域のイベント「堀江ハロウィン」の参加店舗の数は、たった2店舗だった2年目から、3年目には20店舗、4年目には60店舗ほどにもが拡大。いつの間にか、街の名物イベントになっていた。

その後、2015年には梅田さんが会長を務める堀江の会が発足。堀江の商店が集まってできたこの会。ハロウィンのように年に1度ではなく、「毎月、みんなで公園掃除するだけでもええやん!」と、定期的に顔を合わせながら地域のためにできることを模索していったそう。

堀江の会では、近隣のアメリカ村とタッグを組んで「アメホリバル」を開催。さらにそれが派生するような形で、大阪中がサンタクロースでにぎわう日本最大級のチャリティーバル「サンタバル」という大規模なイベントも生まれた。

ちなみにサンタバルとは、リストバンドを購入して参加店で見せると、特別メニューやサービスが楽しめるというもの。購入費の一部が子ども食堂や闘病中の子どもたちへのプレゼントになる仕組みで、昨年はウクライナの子どもたちへ支援も。

サンタバルのリストバンド。リストバンドセット(500円)から製作費を除く売上金がすべてチャリティーに。

「私の人生を大きく変えたのは、神戸での震災。崩れた家や泣き叫ぶ人、慣れ親しんだ街の悲惨な光景を見て、『いつも顔を合わせていた人に感謝の言葉を伝えられていなかったのでは?』 と自分に問いかけました。だからこそ、人とかかわって、助け合って、感謝することこそが生きることだと思うように。そんな経験が私の活動の原動力なんです」

「堀江はなんとなく神戸に近い穏やかな雰囲気を感じて、ここならやっていけるかもと思いました」

若者たちが集まる高感度な街・堀江。この街を、人と人がつながる場所にしたい。そんな梅田さんの想いは、このホステルやカフェにも。

世代も国も軽々と超えて誰もがつながれるホステル&カフェ

「College Horieをオープンしたのは2021年。ちょうどコロナ禍で学生たちの居場所がなくなっていたころ。大学のキャンパスみたいに気軽に来ることができて、顔を合わせながら夢を語り合えるような場所が必要やなと思って」

日本人はもちろん長期滞在中の外国人宿泊者の姿も多く、誰もが心地よくリラックスできる場所だ。

大阪を明るく元気にしたいと活動する「OSAKAあかるクラブ」の副理事長でもあり、その学生部で委員長をしていたという梅田さん。若い世代がSNSだけではなく対面で言葉を交わせる場所をつくりたいとの願いが、オープンのきっかけ。店にはあかるクラブの名物プロデューサーが来て、「元気ないやん!」と若者に声をかけたりすることもあるのだとか。

また、このカフェがユニークなのは、本のない本棚「気づきライブラリー」があること。

「本の代わりにあるのは、自分の熱い思いを具現化した若者たちのストーリー。気になった人がいたらコンタクトが取れるようになっていて、ここからいろんな人がつながっていきます」

誰でも利用できる「気づきライブラリー」。社会課題の解決に取り組む若い世代とつながることができる。

本棚をのぞいてみると、貧困の撲滅に貢献するソーシャルビジネスを展開している人がいたり、食とアイディアで地域を盛り上げる人がいたり。社会のことを真面目に考える学生起業家たちに出会って、なにかの気づきを得られる場所としても機能している。

メニュー開発をはじめとするカフェの運営も、ここで働く学生たちが主体なのだとか。店長は、お客さんからも「クロちゃん」と愛されるメキシコ人スタッフだ。

大の日本文化好きで、日本語も堪能。本国では大学准教授のクロちゃん。「道頓堀の盆踊りで出会ってん」と梅田さん。

「クロちゃんがお客さんに気軽に『ハーイ』とか『どこ行ってたの?』と楽しそうに声をかけるのを見て、少しずつ日本人の若いスタッフの表情も明るくなっていったのを目の当たりにしたんですよね。文化の違いがその人らしさを引き出すきっかけになるんやなぁと驚きました」

国籍や年齢も関係なく、人が交流することで生まれる価値。これこそ、梅田さんが考える観光の本質だ。

大切にしたいのは観光の「光」の部分

「観光って、漢字にすると『光』があるでしょ? そのキラキラした『光』はやっぱり、地域の人とつながって、地域のことを知ることじゃないかな。このホステルに宿泊する海外の人たちには大型量販店でお土産を買うだけじゃなくて、ぜひ日本の文化を感じて、母国に持って帰ってほしいなと思うんです」

壁一面に貼られた、ホステル利用者の写真。心温まる旅を思わせる笑顔がたくさん並んでいる。

その言葉どおり、梅田さんは海外から来たゲストへ、忘れられない体験をプレゼントしているように思う。

時には、生地をひっくり返すたびに拍手が起こるという、お好み焼きの焼き方のレクチャーを。ドリンクを頼んだ人に「今やったらたこ焼き3個つけるで!」と言うこともあれば、地域の盆踊りに誘ってみることもある。

またある日のカフェには、大阪で有名なスイーツ店で買ったホールケーキを前にする外国人が。でも、手にはなぜかストロー。「ちょっと待って!」と声をかけて、急いでナイフとフォークを手渡した。

「インスタでよく見るケーキやったからじっと見つめてたら、欲しそうに見えたんかしらんけど、そのあとで気を遣って『食べますか?』って聞かれたわ(笑)」

そんなエピソードを話してくれる梅田さんは、本当に楽しそうだ。

すごろくで遊びながら街や店をめぐるイベントも計画中。

また、Airbnbのホストとして多国籍なゲストたちに満足してもらえるよう、ホステルの部屋は女性専用ドミトリーやグループルーム、ゆとりのあるトリプルルーム、さらには犬と泊まれるドッグフレンドリールームにいたるまで豊富なラインアップ。カフェだけでなく宿泊施設としても、旅行客にとっての温かいホームになっているようだ。

放っておけず、ついつい世話を焼いてしまう。とにかく喜んでもらいたい、「おせっかい」な性格を自らも公言している。

「大阪って、おせっかい文化があるねん。よく大阪人が『儲かってまっか?』と聞くのは、その人に儲けてほしいから。地元の神戸からやって来た当初は大阪人のストレートな性格にびっくりしたけど、今では私が『あんた、堀江の家賃高いけど大丈夫なん!?』と聞く側に(笑)。成功してほしいし、頑張ってほしい。大阪のおせっかい文化は、『私にできることある?』っていう気持ちの表れなんです」

唯一無二の大阪旅の形、「万博バル」を企画中

「これまで関西圏の子どもたちを中心に開催してきた、サンタバルのチャリティー。今後は大阪・関西万博も視野に入れて、対象を世界の子どもたちに広げて幸せを届けていきたいなと。海外から来た人でも、リストバンドを提示するというルールさえ知ってもらえたら、言葉が通じなくたってイベントを楽しめるはず。旅をしながらチャリティーにも参加できたという思い出は、普通の大阪旅行とはまたひと味違う、記憶に残る観光の形だと思うんです。おせっかいな店も多いしね(笑)」

これこそ、梅田さんが話す観光の「光」の部分。人と触れ合い、地域にかかわり、思い出をリストバンドと一緒に持って帰れば、きっと一生ものの体験になるはず。

「打ち上げ花火のように単発じゃなくて、イベントを継続させることが大切。暮らす人も多い街だからこそ、住んでいる人と商売をやっている人の関係もうまくさせたい。自分も、相手も、地域にとっても三方よしじゃないとね」

堀江から世界に向けて、「光」のある観光を。梅田さんの新たな取り組みから、ますます目が離せない。

また、堀江をどんな街にしていきたいですか?と最後に尋ねてみた。「長く住む人が多いけど、決して堀江って古臭くないねん。時代や人々に求められるようにずっと変化しているんやなと思います。こんなに子どもが多い街、めったにないですよ。遊びやすくて、スタイリッシュで、クリーン。堀江を、そんなふうに大阪を代表する街にしていきたいね 」。梅田さんの表情は、この街と人への愛にあふれていた。

プロフィール

神戸出身。株式会社街プロダクションの代表として数々の飲食店を経営するほか、「堀江ハロウィン」や「サンタラン」、「サンタバル」、コロナ禍の飲食店を応援するプロジェクト「OSAKA AID」といった大阪の名物イベントも多数手がける。