奇想天外で、予測不可能。驚きだらけの街から、型破りな“創造”を世界へ

加⻄幸裕/株式会社くれおーる代表取締役社⻑

食い倒れの街・なんばの名物といえば、粉もの。たこ焼き屋など数々の店がひしめく中、根強い人気を誇るのが「くれおーる」だ。はじまりは、代表取締役社長である加西さんが18歳の時のこと。

「ただの高校生だった僕に、母がある日急に『たこ焼き屋やるぞ』と。返事は『はい』か『イエス』しかなかったですよ!(苦笑)」

ほんとは全然嫌やなかったんですけどね、と笑顔で話す加西さん。食の視点からなんばの“今”と“未来”を支えるキーパーソンとして、期待される人物だ。

果たして、どんな想いで街づくりに取り組んでいるのか。なんばを世界へ発信するために、今必要なことは何なのか。加西さんの胸の内を掘り下げてみた。

 “選択の時代”のために、新しい“粉モン”を

屋号の「くれおーる」には、ラテン語で「創造」という意味がある。その名のとおり、ブランディングからメニュー開発まで、加西さんは新たな取り組みに挑戦し続けてきた。

最近立ち上げた「くれおーるヘルシー」は、低糖質で粉ものを楽しめるブランド。糖尿病患者の声を実際に聞き、「助けになりたい」とはじめたそうだ。

「糖尿病の方は、食事制限がかかるし、粉モンも食べられんでしょう。ご本人が辛いのはもちろん、家族も気を遣ってしまって、食を楽しめないんです」

ひとつの鉄板で、家族そろって粉ものを食べる。そんな幸せを糖尿病患者やその家族にも届けたいと、加西さんは糖質オフメニュー開発を進めた。「中途半端な糖質オフでは意味がないし、選んでもらわれへん」と、大豆やおから粉を使って試作を続けること約1年。糖質80%オフのお好み焼きとねぎ焼き、糖質78%オフの万能ソースの開発に成功したのである。

世界的に糖尿病患者が増え、健康へのこだわりが強まる今、加西さんは「糖質オフやヘルシー志向のメニューにはチャンスがある」と語る。

低糖質のお好み焼きとねぎ焼きソースのセット

「食には、“選択の時代”が来るんやないかと思ってます。実際、グルテンフリーを選ぶ人も最近増えましたよね。小麦粉が合わん体質の人は、海外でも多いですし」

時代の流れに合わせて、くれおーるでは小麦粉の代わりに米粉を使ったメニュー開発をはじめた。自分たちの手で農業から行おうと、ドローンとロボットを使った生産方法にも挑戦中で、キャベツや玉葱などを24時間体制で効率よく育てられるシステムの実現を目指しているそうだ。

「将来的には、“自分たちの米粉でつくったメニュー”を、くれおーるのスタンダードにできたらええですね。輸入に頼りがちな小麦粉より、米粉の方が値段もブレずに売っていけるんちゃうかなと思ってます」

目の前のお客さまの声から、世界におけるニーズまで。敏感にキャッチしながら最善の答えを追求していく姿こそ、くれおーるが愛され続ける理由なのかもしれない。

時代のニーズに合わせた新メニューにも挑み続ける

“寝れんくらい悩む日々”の先に見つけた、新しい活路

粉ものから端を発した加西さんの「創造」は、今や大きな広がりを見せている。そのひとつが、食を基点にあらゆる領域で活動する「世界⼀の⾷SDGsハブ都市・⼤阪を⽬指す会」だ。立ち上げたきっかけは、コロナ禍で道頓堀から人が消えていく様子を目の当たりにしたことだったと言う。

「前例がないから、乗り越え方もわからない。寝れんくらい悩む日が何か月も続きました。そんな中で、自分たちの存在意義を真剣に考えなあかんと、社会とか環境にもっと目を向けなと思ったんです」

再生可能な紙ベースの容器を使用するなどの取り組みも行なっている

なんばのために、そして、外国人観光客が戻ってくる日のために、いったい何ができるのか。仲間と協力し合いながら考え、大阪万博の共創チャレンジャー(大阪・関西万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」を実現するため未来に向けて行動を起こしている活動)へのエントリーや、土に還る容器の使用、フードロス問題の解決など、多角的に取り組んでいる。そして、数多くの未来型経営が評価され、2022年には「SDGs推進ベスト企業賞」を受賞。今は「SDGsフェス」の開催を構想中だと言う。

「今構想している『SDGsフェス』は、“ゴミを出さないフェス”にしたいですね。食べられる食器を使うとか、マイ箸を持ってきてくれたお客さんには100円値引きするとか。使い捨てカイロの石灰のゴミで浄水できる方法も取り入れれば、道頓堀のきれいな川の景色も楽しんでもらえるやろうし」

続いて、フードロス問題についても語ってくれた。

「日本中から集まった食材を選別して各地に送り出す、“天下の台所”としての文化が大阪にはあります。フードロス問題も、“令和の天下の台所”みたいなイメージで解決していきたい。本来捨てられるはずだった食材を集めて、料理でおいしい味わいにできたらええですよね」

楽しさだけではなく、環境にも配慮したイベントを、なんばで開催する。加西さんのアイディアは、未来を見据えた街づくりのモデルケースとして、世界へ広まっていくはずだ。

「環境」が飲食業界の重要なキーワードと語る加西さん

食のリーダーとして、“チップ”のカルチャーを日本にも

アフターコロナも見据えた活動にも、加西さんは積極的に取り組んでいる。

外国人観光客が戻ってくる未来を信じ、日本においてはまだマイナーなチップ制のスタートにも踏み切った。

全国のどの店で、どのくらいチップが集まっているかが可視化される「OTENTO」というサービスを利用しており、「1日1,500人も来店することも多い道頓堀の店舗なら、全国トップ3に入れるんちゃうかな」と加西さんは予想する。注目を集められれば来客数も増え、コロナ禍で厳しい経営状況を打破する大きなきっかけになるだろう。

「スタッフのやる気も出るし、接客のレベルも上がる。自分の店だけやなく、飲食業界の価値も高められる、めっちゃええシステムやと思ってます」

これからの展望についても聞いてみた。

「飲食業界がもっと認めてもらえるように、パイオニアになれるようなことができひんかなと。チップ制を取り入れたのも、そのひとつです。『時給を上げられない』と悩む企業の助けになりますし、給料がよくなれば人手不足も解消できますしね」

未来をポジティブに捉える加西さんの取り組みは、コロナ後の飲食業界、そしてなんばに、きっと元気を与えてくれるはずだ。

新しい取り組みは「くれおーる」から発信していく

奇天烈で不思議な街を、“世界一のハブ都市”へ

関西国際空港があり、さまざまな人が行き交う大阪の中でも、特に存在感の大きな街・なんば。「“世界一のハブ都市”にしていきたい」と意欲を語る加西さんに、なんばの魅力を聞いてみた。

「きれいなビルの街並みって、どこでも見られますよね。でも、カニとかタコ、牛のオブジェが空中にぶら下がってる街って、ほかにあります?!(笑)観光の楽しみって、予定調和じゃない出会いとか発見やないですか。奇天烈で不思議な街やからこそ、『この先に何があんねん!』みたいな、テンションが上がるスポットがたくさん潜んでる。それがええとこやと思います」

そんな唯一無二の魅力をもっと輝かせるべく、「“環境について当たり前に考えられる街づくり”に力を入れたい」と加西さんは続ける。

「なんばは、大阪の象徴。テレビでも取り上げられる場所やからこそ、ポジティブなニュースを僕らがつくらなあかん。世界に誇れる街を目指して、環境を自分ごと化しながら考えていきたいですね」

なんばの良さを引きだすために、次はどんな行動をすべきか。客観的な視点も取り入れながら、加西さんは日々考えている。

400年の歴史を支えるのは、“なんばの人の熱量”でしかない

「インバウンドで順調だった経営も、コロナ禍で一変。引かれるかもしれんけど、5億円くらい借りました」

観光地の経営が厳しい。ニュースでは耳にしていたものの、想像をはるかに超える額だった。しかし、加西さんはくじけず前を向く。

「僕らが困難を乗り越える姿を、ちゃんと残したい」

「不安感が原動力」と、取材中に口にしていた加西さん。だからこそ、逆境に何度も立ち向かい、地域や業界のために人一倍の努力を続けられたのだろう。

さらに、なんばにかける熱い思いの裏に、上の世代への感謝があることも教えてくれた。

「なんばがあったから、くれおーるを大きくできた。400年も道頓堀が残ってるのは、この街を本気で好きな人たちが、本気で活動してきてくださったおかげです。自分たちの商売を繁栄させるなら、地域とか業界に貢献せなあかんと思ってます」

そして、頼もしい表情でこう続ける。

「世界中からお客さんが戻ってきてくださる日を信じて、みんなで力を合わせながら準備を整えてきました。期待をどんどん膨らませて、より強くなったなんばの街へぜひお越しください!」

並々ならぬ覚悟を胸に、日々走り続ける加西さん。明るい未来を想像しながら、みなさんと会える日を心待ちにしている。

自慢のたこ焼きを掲げる加西さん

プロフィール

18歳で、母とたこ焼き屋「くれおーる」を創業。東淀川区の一軒家からはじまり、現在では京橋、道頓堀、東京などに店舗を構える人気店に。なんばを世界に向けて発信するべく、食の視点から、フードダイバーシティ、SDGsの活動にも取り組む。